第11話 お金の匂い

伏見稲荷大社。

渡良瀬さんは1年に一回くらい、

ここに様子をみに、いや、参拝に来る。


あー、今日もお金の匂いがする場所だー、

そんなことをだいたいいっつも思う。


鳥居がずらりとならぶ場所。

あー、ここにもお金の匂いがするー。

そんなこともまた思う。


ご挨拶。

なんとなく

「お前はいつもここに文句のようなものを言いにくるな。」

みたいなことを言われるような気がする。


いえ、文句があるわけではないのですよ。

なんとなく珍しくて。

だいたい、もうちょっとそういう部分は隠そうとするものじゃないですか。

ここ、あんまり隠してないじゃないですか。

あからさまというか、わかりやすいというか。

あえてというか。

むしろ、そういうのがいいんですかね、みんなは。

はっはっは。

いつかそのうちこういうのも時代とともに変わっていくこともあるのかと、

ちらちら見に来てはいるのですが、

いつまで立っても変わらないものだなあ、というので、

見物に来ているのですよ、みたいなことを、

一人心のなかで思う、渡良瀬さんであった。















鳥居と鳥居の間に、

狐がいる気配を感じる。

渡良瀬さん的には、

見ようと思えば見れる、

気付こうと思えば気付ける。


ただ、そちらに意識を向けると、

どんと何かに引き込まれる予感。


だから「いそうな気がするな」

で思考を止める。


これが渡良瀬さんの特技のようなもの。


止めれるのだ。


そんなことを考えてしまおうものなら

思考というのは

流れ出すもの。


いそうな気がするな、

から、

ついつい

「いるのかな?」

「確かめてみようかな?」

「どんな感じなのかな?」

という思考が出てきて、

流れ始めて、

そしてそれは、

無意識のうちに

一つの方向に誘導される。


それが渡良瀬さんには

ない。


思考が止められるのだ。

これが、彼の持つ強みの一つ。


だから狐たちは、

彼のことを、

絡めとれない。


絡めとれない代わりに、

彼は文句のような思考だけ残す。

「お金の匂いがしますね」


そしてその心の声のようなものを聞いて

狐たちは

ただ

げんなり

とする。


風の吹く松竹梅

小説書いてます。 すべて架空の世界の出来事。

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